新製品ローンチへの挑戦
本 eBook は、2026 Veeva Japan Commercial & Medical Summit のセッション「新製品ローンチへの挑戦」における、大塚製薬株式会社の安藝 貴文氏との対談を再構成したものです。限られたリソースの中で希少疾患領域の新製品ローンチをいかに成功に導くか。「スペシャリスト型」リモート MR の導入や、本社・現場・リモート MR が三位一体となる独自のターゲティング戦略をどのように構築し、製品価値を最大化したのか、その実践的なアプローチと成功の要諦を概説します。本 eBook が、新たなコマーシャルモデルを模索する製薬企業の皆様の一助となれば幸いです。
Vice President, Business Consulting 赤穂 慎一郎
Business Consultant Wenxin Perrin
1. 新製品ローンチの背景と直面した課題
赤穂:新製品ローンチの背景についてお聞かせください。
安藝:腎臓領域に強みがあったため、親和性のある製品として腎臓・免疫領域の製品を発売しました。現在ローンチから約 1 年が経過したという状況になります。
赤穂:最も高いハードルは何だと想定されていましたか。
安藝:弊社内のリソースの制約が課題になると認識していました。コ・プロモーション製品や SOV モデルの製品も多く、希少疾患の領域において十分なコール数を確保する難しさがありました。市場予測を NPV で割り戻し、コストや FTE を勘案すると、コール数は多くは想定できないとなりました。コール数を減らした事により、セールスモデル自体の実効性が十分に発揮されない可能性もあり、従って効率の良いセールスモデルの構築が必要でした。その点が非常に高いハードルだと考えていました。
赤穂:対面とデジタル等の従来のやり方だけでは不十分だと考えられたのでしょうか。
安藝:十分なリソースを投入して現場の知識レベルが高い状況を作ることが出来れば、大きな課題はないと考えていました。ただし、前述の通り、コール数の課題があったため、厳しいという環境でした。
赤穂:社内の現状から厳しいというのはどういう環境だったのでしょうか。
安藝:多くの製品を扱う中で、希少疾患に対してコール数を十分に割くことができず、かつ限られたリソースの中で進めていかなければならないという環境でした。
2. リモート MR 新設の狙いと「スペシャリスト型」の構築
赤穂:それらの課題解決のために、リモート MR を新設する狙いがあったのですね。
安藝:はい。狙いはいくつかあり、製品のフェーズに応じた変化が必要だと考えていました。1 つ目は、専門性のレベルを上げるための学術的なサポートです。我々にとって初めての免疫領域であったため、現場の MR が面談しやすくなるよう、リモート MR が同行する(現場 MR が PC を持参し、3 者で面談する)スタイルをとりました。2 つ目は、現場の課題を解決するための面談をリモート MR が実行すること。そして 3 つ目は、活動の優先順位を本社主導でマネジメントすることです。発売当初は医療機関に製品を導入いただくための活動に注力し、次のフェーズでは特にニーズの高い医療機関への情報提供にフォーカスするなど、状況に応じたマネジメントを行いました。
赤穂:リモート MR は大きく 4 つのタイプがあるように考えます。
スペシャリスト:高度な専門知識が必要な時にオンラインで深くアプローチする。
インサイドセールス:新規開拓や既存顧客の Web 面談の承諾や説明会の参加を促すことなどに特化した役割。
リモートレップ:従来の担当エリア制に近い形で訪問規制が厳しかったり、物理的な訪問が難しい遠隔地の GP 等をリモートでカバーする役割。
オンデマンドサポート:必要な時に必要な情報をすぐに欲しいというニーズに応えるインバウンド主体の役割。
今回は、この 4 つの中でどのモデルを構築されましたか。
安藝:スペシャリスト型になります。リモート MR には高い学術知識が求められるため、製品知識だけでなく疾患背景に関する英語の論文を毎週 10 本以上読み込んでもらい、解説資料を作成して勉強会でアウトプットするというトレーニングを徹底して行いました。外部から採用したメンバーが現場で活躍できるよう、4 〜 5 ヶ月ほど時間をかけて知識を習得してもらいました。また、MR が面談機会を設定し、そこに同席する形でリモート MR とつなぎ 3 者で面談するという形が最も多いです。
3. 本社・現場・リモート MR が三位一体となる「バディ制」
赤穂:ローンチを振り返り、リモート MR 以外にどのような取り組みに挑戦されましたか。
安藝:限られたリソースで最大の効果を得るために、重点的に情報提供を行う施設を明確にし、医療機関への情報提供活動を効率的に進める体制を構築しました。この発想は、司馬遼太郎さんの書籍、『坂の上の雲』から得たものです。現場 MR 、リモート MR 、本社の 3 者が連携しながら、優先順位を明確にして活動を進める仕組みを構築しました。
赤穂:それは具体的にどのようなシステムですか。
安藝:支店ごとの課題を抽出する戦略会議と、施設別の活動方針を検討する会議を設けました。ここで重要なのは、プロダクトマネジメントグループ(本社)の担当者とリモート MR を 1 対 1 のバディ制にしたことです。エリアごとに担当を分け、医療機関への導入状況や活動成果を、共通の指標として設定しました。本社と現場を切り離して考えるのではなく、マーケター自身も現場の活動成果に責任を持ち、現場と一体となって動く体制を構築しました。本社で立案した方向性が実行段階でぶれることがないよう、現場との連携を重視して運営しました。
4. 主な成果と成功の転換点
赤穂:上市してから 1.5 年程経過しましたが、振り返るとリモート MR やその他の取り組みの成果に対して、どのような評価をされますか。
安藝:売上は目標を大きく上回り、全体として有効な取り組みだったと考えています。リモート MR の面談数は 3,500 回以上にも達し、高い稼働を維持しています。特に良かった点は、製品ポジショニングの一貫性を維持できたことです。現場では多様なニーズへの対応が求められますが、リモート MR が目指す方向性と製品ポジショニングを深く理解し、医師との面談に同席することで、情報提供の方向性を適切に保ち、一貫したメッセージを届けることができました。
赤穂:特にリモート MR の大きな成功を収められた一番の転換点は何だったとお考えですか。
安藝:大きく 2 点あります。1 点目は、リモート MR が単なる質問対応に留まらず、活動方針にそった取り組みを徹底できたことです。これができていないと、十分な成果につながらなくなってしまいます。2 点目は、製品フェーズに応じた役割の明確化です。自らの活動成果が見えにくい、不明瞭というのが業務をしていてやりがいにつながらない状況を生み出していくと思いますので、先ほどのバディ制により、エリア担当を明確にし、自らの仕事をはっきりとさせることが、業務のやりがいと成果につながる重要な転換点でした。
5. 今後の展望と新しいエンゲージメントモデルへの挑戦
赤穂:リモート MR はどのタイミングまで実施予定ですか。
安藝:今後も新製品の上市が控えているので、その都度必要な知識を深めて、繋いでいくというイメージを持っています。一方で、このモデルはすべての製品に必要というわけではなく、期間としては新製品の上市から 5 年間くらいになるかと考えています。
赤穂:今回の成功が今後の腎・免疫領域、ひいては御社全体の情報提供活動の在り方にどのような影響を与えているでしょうか。
安藝:限られたリソースでも、取り組み次第で成果につなげられるのではないかという雰囲気が社内に生まれています。特に希少疾患のように、SOV(シェア・オブ・ボイス)を重視したアプローチではなく、医師と深いディスカッションを行う OPD(One Patient Discussion)が必要な領域においては、非常に有効なモデルだと証明できました。また、リモート MR が全国の状況を幅広く把握しているため、得られた知見を共有し、マーケティング活動に活かす役割も担っており、大きなメリットを感じています。
赤穂:まとめとなりますが、まずマーケティングの方もエリアの成果に責任を持つという点は斬新だなと思いました。だからこそ、フィールドの方とマーケの方もバディ制度として協働できる。それを支える会議体であったり CRM だったりする強固な仕組みを構築されたのが成功要因だったのかと本日伺いながら感じました。今回の成功を機に、今後どのようなエンゲージメントモデルを構築していこうと計画されていますか。
安藝:今回のモデルは上手く機能しましたが、これはあくまで現在の内部・外部環境における最適解です。先ほどお話しした司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』にも登場する「本日天気晴朗ナレドモ波高シ」という言葉が示すように、環境(波の高さ)によって求められる対応は常に変わります。過去の成功体験にとらわれることなく、常に環境変化を見極めながら新しい最適解を追い続けていきたいと考えています。
登壇者
安藝 貴文 氏
大塚製薬株式会社
医薬営業本部 プロダクトマネージメントグループ 腎・免疫領域 PMM
赤穂 慎一郎
Veeva Japan 株式会社
Vice President, Business Consulting
<注記>
※この事例は、2026 年 7 月に行われた Veeva Japan Commercial & Medical Summit でのセッション内容を元に作成しました。内容の一部は登壇者の私見であり、所属企業を代表するものではありません。
※所属部署は Summit 当時のものです。