eBooks
新しいエンゲージメントモデル構築における
分析部門の役割と展望
本eBookは、2025 Veeva Japan Commercial & Medical Summit のメインセッション「新しいエンゲージメントモデル構築における分析部門の役割」における、製薬業界のデータ及び分析業務に精通される、ユーシービージャパン株式会社 小川 雅宏 氏ならびに MSD株式会社 久保田 一樹氏との議論を再構成したものです。データアナリティクスに基づくエンゲージメントモデル構築の未来に向けた示唆を概説します。本書が製薬企業の皆様の一助となれば幸いです。
Vice President, Business Consulting 赤穂 慎一郎
1. 目指すゴールと現在地
赤穂:それぞれ頭の中や社内での計画に目指す姿があるかと思いますが、今、何合目くらいでしょうか?
小川:顧客を深く理解し情報提供を行い続けることが、今までもこれからも変わらない本質的な点になるでしょう。現在の到達点としては、5合目くらいだと思っています。ただ、昨年や二年前に同じ質問をされたとしても、5合目と答えていたと思います。自分達も進化しているものの、目指すゴールの高さもさらに上がっているように感じています。
久保田:私も同様で、顧客エンゲージメントのビジョンを作成して、そこに向かって様々な取り組みを進めているという状態です。テクノロジーの観点では、Right Customer / Right Channel / Right Message / Right Timing の4つのRを目指しています。頂上に辿り着かいない一番の理由は、Right Messageの部分で、「医師がこの情報が必要としているかもしれないので先回りして提供する」点に、もっと力を注いでいかなければなりません。山の頂上が上がっていくという感覚は、私も持っています。
赤穂:山の頂が上昇していく要因とは何でしょうか?
久保田:一つは生成AIを含むテクノロジーの進展です。医師もメーカーも情報へのアクセスが容易になるなか、取得できる情報も増加するため、メーカーへ求められる期待値も変わります。そして、各社が競うように医師の期待に応えようとすると、その基準は更に向上します。テクノロジーによる継続的な進化もあいまって、今まで出来なかったことができるようになると、医師もメーカーも見える景色が変化します。
2. 未来のエンゲージメントモデル構築に向けて
赤穂:新しいエンゲージメントモデルという観点で、どういう点に特に注目されていますか?
小川:より良いエンゲージメントモデルを作るためには、顧客の理解、部門間連携及び情報のシームレスな共有、成功確率の高い次の一手の推定の3つがキーワードになるでしょう。そしてその実現に不可欠なのは、データの幅と質になります。それらの収集・整理・活用は必要不可欠なので、そこに注目しています。
久保田:4つのRという観点で考えると、コンテンツの中身に注目しています。チームとしても多くの時間を投資しています。量については、チャネルや時間で対応し、質については、より響くコンテンツを先回りして準備するということです。生成AIの登場は、この部分への貢献に大きなポテンシャルがあると考えています。
久保田:コンテンツ作成とプラットフォームの効率化は、かなり現実的なテーマだと思いますし、多くの企業で取り組まれていることだと思います。マニュアルヘビーで、同じようなものを作るファクトリーから、個別化されたものをより自動的に作っていくという形になっていくでしょう。例えば、グローバルチームが新製品を上市する時に、キービジュアルを作るケースが多々あります。患者さんの写真をアジア人に変更する際に、一から作らなくても、簡単に変更ができます。医師のニーズが明確になれば、より自動的にパーソナライズすることは今まで以上に簡便になるでしょう。そういったPoCをされている方々もいらっしゃると思っています。ただ、難易度が高いのが顧客の理解で、生成AIを使えるようにするためのデータの獲得がカギになっています。
小川:データを集める際、まず、外から買うのか、中で作るのかが問いになります。外の場合はデータプロバイダーから適したものを取捨選択します。また、社内でデータを構築していく場合は、作業としてデータを集めるのではなく、自分達のアセットになることを踏まえて、収集しなければ、いくら工数をかけても使えないデータばかりが集まってしまうので留意する必要があるでしょう。
3. データへの向き合い方
久保田:新しいプロバイダーも生まれ、ビッグデータ関連など新しいトレンドもあり、データのランドスケープが広がっています。どのようなデータセットが自社のビジネスニーズに合致するのかを評価しながら適切に購入していく見極める力が求められています。一方、ファーストパーティーデータは、ターゲットドクターの自社製品に対するお考えを把握していくといった時に、その意義に対する理解や、各種定義に対する共通認識がなければ、使えないデータが収集されてしまう恐れがあります。また、思いのほかウェブ面談などで録画にご協力いただける医師もいらっしゃるため、一部の医師から頂いたデータをもとに如何にしてスケールさせていくのか、も考えるべき問いになってきています。
小川:アウトカムのデータが課題です。医師が持たれている患者さんの数や、処方ステージの変遷、考え方の動きなどが難しいのですが、そうしたデータは、次のアクションの精度を検討するうえでとても重要になっています。患者さんの数は、ダイナミックなのか、スタティックなのか。期間は、年間なのか月次なのか。そういった定義に対する理解が統一されていることも考慮する必要があります。
4. データアナリティクス部門の役割
久保田:根本的な解決策はないかもしれませんが、データアナリティクス部門は、ビジネスユニットと対話する部門だからこそ、必要な項目に気づいてあげられるケースもあります。データを集めた後、何をしたいのか、事前の理解を促すことは意識しています。また、我々に質問してもらいやすい組織の立ち位置にしていくことも意識しています。データ収集にはいくつかの方法がありますが、そのデータの信頼性を十分に考慮してデータの活用をしていくことは重要であり、マーケティングや営業推進・企画といったメンバーとも収集方法と活用方法に関してセットで議論することは重要と考えます。
小川:数年後の予測ですら難しい時代です。しかし、大きく変わる点と変わらない点があると考えています。変わらないのはデータドリブンで、次にどんなアクションを取るのかを予測していくことです。データの幅・量・質が変わる事によって、精度が高まっていく感覚をもっています。分析の結果、推奨のアクションが、参考情報レベルだったものが強い推奨になっていくでしょう。そして、それが定着すると、部門間でそれぞれ顧客に対して何をするのか?という点がクローズアップされます。今も重要ですが、より一層、部門間での顧客エンゲージメントのデザインが重要になると考えています。
久保田:セールスチームとマーケティングチーム、メディカルチームがバラバラでなく、顧客の今のニーズ・状態・ヒストリーを鑑み、個別部門でなく部門横断でどうアプローチしていくのかという全体設計が求められ、更に部門横断で推進する部門がより大きな役割を担うことになるのではないかと予想しています。2030年は遠すぎる気がしますが、顧客の立場からすると、20年前のように、情報の多くをMRから得ていた時代から、コロナ禍を経て、今やデジタルチャネルからの情報収集が多くなっています。業界を取り巻く環境を見ても、デジタルチャネルがさらに重要になる傾向は明らかです。デジタルが進展すると取れるデータも変わり、量も増えます。それにより、顧客理解も更に進むでしょう。また、社内のバリューチェーンの自動化も進んでいると感じます。私は、プロダクトマーケティングのキャリアが長く、以前はリソースアロケーションがメインの仕事でした。しかし、リソースアロケーションはAIが一番強い部分ではないかと考えています。これからは、生成されたインサイトからデータの制限や各種レギュレーションを踏まえて、判断できる力が重要になってくるでしょう。会社によっては、現在は事業部門の下請けとしての役割に徹してしまっている部門もあるかもしれません。しかし、本来は対等な立場で、事業部門の依頼内容が正しくないと思えばそれを指摘し、健全なディスカッションができるような関係にならなければなりません。そのためには、提案する内容が浅いものでなく、確かな提案だと思ってもらえるようにする必要があります。提案内容のヒット率が低いと医師に話を聞いてもらえなくなってしまいます。私は、依頼事項に対して適切に対応するという下請けのような働き方は最低限の役割、調整弁としての役割、最終的にはビジョンに向かって牽引していく役割の3つをバランスよく果たさなければならないと考えています。PL責任のあるビジネスユニットのリーダーは短期目線にならざるを得なく、私たちのような役割が中長期のビジョンに対するトランスフォーメーションを牽引していくことが求められると常々思っています。
赤穂:最後にVeevaへの期待などを教えてください。
小川・久保田:Veevaにしか提供できないデータや知見があるので、業界全体の底上げにつながるような観点での活動に期待しています。
登壇者
小川 雅宏 氏
ユーシービージャパン株式会社
経理・財務インサイト トゥ インパクト本部 Insight Generation部 部長
久保田 一樹 氏
MSD株式会社
Digital & Data Enabler Unit Executive Director, Unit lead
赤穂 慎一郎
Veeva Japan 株式会社
Vice President, Business Consulting
<注記>
※この事例は、2025 年 7 月に行われた Veeva Japan Commercial & Medical Summit でのセッション内容を元に作成しました。内容は各登壇者の私見であり、所属企業を代表するものではありません。
※所属部署は Summit 当時のものです。