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AI 時代に顧客に選ばれ続ける MR になるために
本 eBook は、2025 Veeva Japan Commercial and Medical Summit のメインセッション「 AI 時代に顧客に選ばれ続ける MR になるために」における、日本の製薬業界を牽引するセールスリーダー 4 名との議論を再構成したものです。 AI 時代に医師の「真のパートナー」として選ばれ、貢献し続けるために必要な、実践的で具体的なマインドセットと行動指針を概説します。本 eBook が製薬企業の皆様の一助となれば幸いです。
Vice President, Business Consulting 赤穂 慎一郎
1. コロナ禍を経て感じる変化
米国における診療科別に医師が何社の MR と面会しているか集計した 2024 年のデータによると、領域毎に違いはありますが、平均して 3 社の MR と会っています。この数値は、日本も同様だと考えています。この数値に対して、実際に現場で感じている変化について次のようなことが挙げられました。まずは、コロナ禍の影響が一番大きいことです。緊急事態宣言などで会えなくなり、情報提供の在り方が大きく変わり、そのまま大きく変わり続けるかと思いましたが、皆さんがご認識の通り、対面での情報提供が戻ってきました。しかし、 2 つめに、医師にとって価値がないと思われると、面会の機会が得られないようになったこと。それに加えて、医師がより患者さんを中心に据えていると感じることと、AI やデジタルの活用が不可欠であること、そして、医師に対するより個別化されたエンゲージメントに対する要請が挙げられます。
2. 医師にとって価値のある MR
対象となる患者さんに対して数ある治療オプションの中から治療法・医薬品の変更を検討していただく際には、患者さんにも医師にも大きなストレスがかかります。そこで大事なのは、患者さん自身が治療決定に関わる Shared Decision Making(共同意思決定)になります。よって、医師にだけ治療提案するのでは不十分で、医師に治療の価値を認めてもらい、患者さんに伝わっていくところまでを意識していかなければなりません。それにより、患者さんの QOL(クオリティ・オブ・ライフ)が向上し、医師にも喜んでいただけるようになります。それが、製薬業界の MR の価値の本質だと考えています。
医師はコロナ禍前のように対面の時間は作っているものの、一度閉ざした扉は開かないケースもあります。医師が面会したいと思ってもらえるような情報提供ができるかがカギとなります。コロナ渦前は、ウェブ面談で画面共有すら困難でした。今は、医師の関心事を考えて情報提供し、その後にメールでコンテンツを送ったり、あるいはウェブ講演会を視聴していただいたりといった、様々なチャネルを通じたエンゲージメントを行っています。それらの複数チャネルを用いていくためには、一方的な情報提供では届かず、様々な点を考慮する事が必要になります。つまり、「(今まで以上に)考えられる MR 」がキーワードと言うことです。
3. AI 時代の「(今まで以上に)考えられる MR 」とは
AI について考えを深めると、プロンプトの集積と学習がまずスタートになります。しかし、医師とMRの関係は人と人のテーマであるため、目の前の医師が今、どんな気分なのか、あるいは今この瞬間に何を求めているのか、というのは、やはり人間でなければ察する事はできません。その場の柔軟性という観点では、人間の脳に勝るものはないのではないでしょうか。そして、心の奥にある本音は、信頼関係があってはじめて明かしてもらえます。そのため、選ばれる MR というのは、何が意味あるものなのかを医師毎に理解する事が重要です。そのためには、話をしながら理解を深める対話力が不可欠であり、また、同じ医師でも一日の中で必要なものは変わってくるため、柔軟性も求められます。以前は当たり前だった、アポイント無しでの面会は皆無となり、アポイントは必須となっています。そうすると、一回目は会えても、その後会ってもらえないということが発生します。すべては、医師に選ばれるかどうかなのです。
4. どのような目標設定が重要になるのか?
そのような医師にとって価値のある MR を増やしていくためには、「 MR が何のアクションを実行したか?」という企業視点でなく、「医師がどのように受け取ったのか?」を見る、顧客視点での取り組みが求められます。必要に応じて担当 MR が席を外すなど、医師が率直な意見を伝えやすい環境を整え、医師から該当する面談に対するフィードバックをもらうといった、現状に対する結果検証が重要となります。医師からの直接的なフィードバックを、対面だけでなく、デジタルチャネルやコンテンツに対しても実施すれば良いのです。それは、外部の会社へ依頼するのではなく、マネージャー自身が行い、医師毎の経時的な変化を追っていくべきです。目標設定は、まずは現状を理解してから考えるべきです。
5. スキルセットとマインドセット – 問いを立てる力・情報解釈力・実践するマインド
マネージャー自らが現状を理解し、そのギャップを埋める活動をしていくうえで、医師に選ばれるチームを作っていくには、メンバーにどのようなスキルやマインドを持ってもらう必要があるのでしょうか。顧客に価値を提供するというのは普遍的であるものの、AI がより普及する前提に立つと、問いを作る力、情報を解釈する力、まず実践してみるマインドの 3 つが必要になります。1 点目の問いを作る力というのは、AI に考えさせる正しい問いを立てることです。そうでなければ、間違いのない全国平均の回答に終始してしまいます。まだ医師が気付いていない問題点に、問いを立てて解決策を提示する事で、医師へ価値を提供できるのです。2 点目の情報を解釈する力は、AI の回答をそのまま鵜呑みにするのでなく、人と人の行間や隠された本音を察知する力になります。そして、最後の 3 点目は、実行してはじめて結果が得られるため、怖がらずにまずやってみるというマインドです。
6. MR にとっての AI 活用
顧客の情報は個別の理解だけでなく、医局、専門、思考が似ている医師など、N 数が増えれば増えるほど理解は深まります。そうすることで、どの顧客が、対面、メール、講演会、勉強会など、どのチャネルを好むのかもおのずとわかってくるでしょう。それにもとづき、訪問計画をしっかり立て、活動を積み重ねていく事がより良い情報提供につながります。そして、実際のアクションの結果や、成功事例などをタイムリーに吸い上げて、他の MR にも展開していくという機会を作らなければなりません。コールレポートの内容が正確でなければ、 AI が出すものも間違ったものになります。そのため、MR にとっての AI 活用を実現するには、コールレポートの内容の正確性がカギになります。
また、AI が時短や効率化に使われるケースが多い一方で、AI を使って信頼関係を築く方法を考えることもできます。実際に、AI に質問を投げて返ってきた回答を使って、それをフックにして医師と会話をし、いい反応を得た経験があるセールスリーダーのお話しがありました。その医師は、自分の関連するちょっとした内容に触れてもらえたことが嬉しかったようだと言います。多くの MR は、自社の製品を使っていただき患者さんが笑顔になることをモチベーションにしていることでしょう。そういう観点で、AI 活用のユースケースを検討することも考えていくことが必要となるでしょう。
一方、希少疾患の場合は、まだ診断されていない患者さんがいらっしゃるケースが多々あります。医師が薬剤情報を求めるタイミングは、まさに治療対象となり得る患者さんが目の前にいらっしゃる時です。その時に、MR と話したい気持ちになることが想定されますが、それをリアルタイムでとらえるのは不可能です。そこに、如何にして AI を使えるのだろうかという点については、これからも多くのセールスリーダーの皆様と対話を重ね考えを深めていきたいと思います。
7. セールスリーダーの今後の役割
新しいテーマは一部の人間が率先して試み、その後に大多数のフォロワーに伝播します。どのような状況においても、実施しない層もいます。まずはやってみることが大切であり、それを促してあげることが重要です。全体平均を押し上げるのみならず、できる人には挑戦できる環境を用意して、やらせてあげることが結果に繋がります。それがセールスリーダーの役割で一番大きいのです。そして、セールスリーダーとしては、評価の枠組みと評価内容に対して、権限があります。AI 時代に生きる MR としてのあるべき姿と「なぜやるべきなのか?」を示し、それができるメンバーを評価し称賛する事に尽きるのです。勢いをもって走れる人を評価していきたいけれども、ただ単に数を追う事にならないように、アクション数でなく、結果がどうだったのかという点もバランス良く考慮にしていく事は当然ながら必要になります。
必要な薬剤が医師に選択肢として与えられている状態を作るため、MR はそのプロとして認知される必要があります。そのためにやるべきことは、考えること、相手に関心を持つこと、先生の考えを知りたいから質問することです。良い質問をするためには、考えることも関心も求められます。適正使用が進み患者さんのためにつながるという目標をチーム全体として追い続けるのがセールスリーダーの変わらない役割になります。
8. 本社とのより良いコラボレーションに向けて(本社部門への提言)
フィールドメンバーの多くが、自社の製品を患者さんにお届けすることが MR の役割だと考え業務をしていることでしょう。業務推進において、Veeva のソフトウェアをはじめ、色々なツールが存在していますが、フィールドメンバーは自分の役割に役立つと思えば活用は自然と進んでいくはずです。フィールドメンバーのツール活用を促進するうえでは、彼らにそのツールが役立つと思わせることが重要だとセールスリーダーの皆様は日々感じています。良い取り組みの例として、「本社メンバーによるアバターを使った動画による取り組みのショーケース」が紹介されました。何かを作る時には、作り手と使い手をつなぐワークショップなども大事だというアイデアも共有されました。あるリーダーは、「社内会議で役立つということを前面に出し続ける事で、良いチーム作りや協働の実現につながると信じている」と言います。本社とフィールドで役割は違っても、ビジョンやミッションは同じく「患者さんの笑顔」です。そのため、本社部門の皆様には、使わないといけない理由だけでなく、使いたくなる理由も併せて考えてフィールドチームとエンゲージできる施策を共に協議していければ幸いです。
登壇者
落合 大輔 氏
サノフィ株式会社
スペシャルティケアビジネスユニット 希少血液疾患領域 営業部 部長
西地 正騎 氏
アムジェン株式会社
炎症・免疫疾患事業部 西日本 営業部部長
水野 厚志 氏
グラクソ・スミスクライン株式会社
ジェネラルメディスン事業本部 プライマリ ーケア営業 関東甲信越リージョン 営業部長
渡辺 賢史 氏
バイエル薬品株式会社
執行役員 営業本部長
赤穂 慎一郎
Veeva Japan 株式会社
Vice President, Business Consulting
<注記>
※この事例は、2025 年 7 月に行われた Veeva Japan Commercial & Medical Summit でのセッション内容を元に作成しました。内容は各登壇者の私見であり、所属企業を代表するものではありません。
※所属部署は Summit 当時のものです。