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製薬・コマーシャルDX の実現に必要なことは?

DX(デジタル トランスフォーメーション)という言葉に触れる機会が増え、製薬業界のコマーシャル領域でも、医師とのコミュニケーションにおけるデジタル活用が注目を集めています。ところが実態はまだ各社試行錯誤のステージではないでしょうか。そこで、「コマーシャルDXの実現に求められるものは何か」を探るために、DXを積極的に推進している製薬業界のリーダーの方々と、他業界におけるDXの知見を豊富にもたれているDX Japan 植野様にお集まりいただきました。これからDXに取り組む皆様への一助になれば幸いです。

アステラス製薬株式会社
情報システム部長 須田真也様

大日本住友製薬株式会社
マーテック戦略推進室長 横田京一様

株式会社DX JAPAN
代表 植野大輔様


製薬・コマーシャル業界に欠けているDXの課題と目指すゴールとは

講演の冒頭で、DX JAPAN 植野大輔氏より、DXの定義が示されました。「DXの肝は「改善」ではなく、デジタル技術で既存事業の破壊と創造、あるいは未来を構築して社会に変化を及ぼす事業創設です。真のDXが理解されていないのが現状」と指摘します。続けて、マイクロソフトの提唱する4つのテーマを紹介し、「これらに対しデジタルを使って、どうするか考えること」がDXの目指すべきゴールだと提言します。

これら4つのテーマに着目し、お客様とのつながりを実現したDXの事例として、米国のドラッグストアを紹介します。「ウォルグリーン」というアメリカの薬局チェーンでは、スマートフォン向けのアプリを提供し、医療サービス検索や処方注文だけでなく、患者さんの服薬を支援するためのリマインダーなども提供しています。植野氏は「薬を販売して終わりではなく、デジタルを使い正しい服薬を促し、健康になっていただく取り組みがDXの一つの成功例」だと話します。

3つの部門でDXに取り組むアステラス製薬

海外での事例紹介を受けて、アステラス製薬の須田真也氏が、自社の取り組みを紹介します。同社では、3つの部門を中心にDXに取り組んでいます。ひとつは、情報システム部です。二つ目は、Advanced Informatics & Analyticsというデータサイエンティストが集まった部署です。そこでは、データの価値をビジネスに活用していく取り組みを推進しています。そして、三つ目がRx+(アールエックスプラス)事業創成部です。この部署は、最先端技術を利用して新しい医療ソリューションを提供することで、薬以外の手段で患者さんに健康になってもらう、もしくは健康を維持してもらうことを目的とする部署です。具体的に注力する事業領域として、慢性疾患の重症化予防や身体・運動機能の補完・代替など、6つのテーマを設定して事業創出活動に取り組んでいます。
須田氏は「製薬会社としての事業の幅を広げて、皆さんにもっと幸せになってもらう、もっと健康になってもらう。適した医薬品や治療手段がなくて困っている患者さんにできるだけ早く薬を届け、それらを信頼できるものとして処方していただくために情報を提供する。これも大きな役割だと思い、その取り組みを今進めているところです」と話します。

関係性の構築に取り組む大日本住友製薬

コマーシャル部門のDXについて、大日本住友製薬の横田京一氏が、自社の取り組みに触れます。横田氏は「コロナによって、ドクターをはじめ薬剤師や看護師の方々と築いてきた関係性が一気に途絶えてしまったので、まずすべてのタッチポインの見直しを行いました。昨年の4月からは、オンライン会議システムを全面的に導入して、先生方との関係性も再構築していますが、さらなるタッチポイントの強化策としてVRの活用など新たなエクスペリエンスの提供も推進しているところです」と語ります。
DX推進のためにデジタルを活用する取り組みについて、植野氏は「デジタルによって、タッチポイントが増えていきます。そこにどう事業としての関わり方をしていくのかが大事だと思います」とコメントし「商品を使ってどう暮らしが良くなるか、生活が充実するか、悩まれている課題が解決するか、そこまでデジタルがあれば携わっているわけで、企業として責任をとることができます。今、パーパスという言葉がとても着目されているのは、デジタルを使ってこれまでと違うところまでお客様に関与できる時代が来ているという背景があると思います」と補足します。

DX推進の成功の鍵は社員のモチベーションと目的意識

DX推進の4つのテーマにある「社員にパワーを」という目的について、横田氏はEmployee Experienceの重要性を指摘します。「DXのXはTransformationを指しますが、もう1つExperienceの意味もあります。Experienceというと、どうしてもCustomer Experienceだけに着目してしまうのですが、やはりEmployee Experienceという部分が大切だと思います。社員の方々が、『面白そうだな』とか『やってみようかな』とか『あ、これ楽になるな』とか、そういうポジティブなイメージを持ってもらうことが、DXを進める上でとても重要だと感じています」と横田氏は指摘します。
アステラス製薬の須田氏も、DX推進における目的意識の大切さを指摘します。「DXというと、システムとかデジタル技術の導入が必ず付きまといますが、常に社内で話しているのは『システム導入がプロジェクトの目的ではなくて、それはあくまでも手段であって、それによって何を実現したいのか』です。更には業務を変えるだけではなくて、それによってさらに何ができるのか、それが患者さんのためになるのかどうか、患者さんへの価値を中心に考えるDXを目指しています。実は製薬ビジネスはb to b to cで、どうつながるかが、重要なんです」と話します。

失敗を恐れずにリーダーシップの発揮が重要

日本のDXにおける取組について、植野氏は「日本企業はもっと早く、もっと本腰入れてやっておくべきでした。欧米の大手企業では、トランスフォーメーションを2010年くらいから仕掛けていました。グローバルのトランスフォーメーションランキングでは、富士フィルムさんだけしかランクインしていません。日本は、まずトランスフォーメーションがとても出遅れたところにDXのDがついてきたので、難易度がはるかに高くなっています。海外でも、トランスフォーメーションに慣れているはずの企業でも、デジタルというと苦戦しています。これまで、改善で生き残っていた日本企業は、今回それらを同時にやると言う非常に難易度が高いところに挑むという状況だと思います」と指摘します。
DXを推進するIT部門では、デジタル技術の進化に合わせて、新たな役割が求められています。その方向性について、須田氏は「最近のデジタル技術は、業務要件をはるかに超える新しい武器を提供しています」と形容します。かつては、業務要件に対してデジタルでできることを精一杯に構築し、100点満点の要求に対して、どこまで及第点を求めるかがIT部門のミッションでした。しかし、現在のデジタル技術は、ビジネス部門の人たちが想像できなかったようなデータ処理や連携ができるようになっています。そこで「最新のデジタル技術を導入して、その使い方に納得してもらって、我々の提案を聞いてもらって良かったでしょ?とビジネス部門に納得してもらえるIT部門になりたいと思っています」と須田氏は語ります。そのためには、たとえ話として「自転車に乗るために補助輪を外して転びながら練習するような、ある程度の失敗を乗り越えようとする風土も大切です。まだ補助輪が付いている時に補助輪を外されて、乗れと云われても当然何度も転ぶんです。でも何度も転んで失敗を乗り越えた結果として、颯爽と自転車に乗れるようになるんです。その過程の「転ぶ」ということは、良い失敗だと思います。誰でも転んで怪我をしたくありません、だからといって、ずっと補助輪をつけたままだと、転ぶという失敗はしないかわりに自転車に乗ることができません。個人も会社も組織も同じで、今できないことを可能にするには、安全を選択するだけではなく挑戦を続ける必要があります。すべてを計画して乗れると分かってから乗るのではなくて、乗れるようになるために何回も努力をして、その過程での失敗を許容し、失敗のたびに学んで実現にちかづいていくそのプロセスが大切です」と、須田氏は主張します。

また、横田氏は「昨年から、営業所長を中心にデジタルトランスフォーメーションを推進するプロジェクトが動いています。リーダーが如何に新しい目標を示しながら進めていくのか、リーダーの存在は極めて重要になってきます。リーダーシップを発揮して行く上で大事なのは、パフォーマンスとメンテナンスという考え方になるのですが、デジタルというものは皆が得意なわけではなく、デジタルよりはアナログで力を発揮する人もいます。そういう人も含めて、集団、組織としてきちんと運営していくためにも、この2つの視点を重視して束ねていくことが非常に重要だと思います。」と切り出し「特にデジタルという得体の知れないものをみんなで使っていこうとした時に、ビジョンや、危機意識とか新しい未来への希望などを示しながらみんなを導いていくこともリーダーシップとして大切。」と語ります。

求められるDX人材とチームとは

そこで求められる人材について話が展開します。デジタル人材とDX人材という言葉をよく耳にしますが、これは同意語でしょうか?植野氏は「いえ、違います。デジタル人材が示すデジタルというのは色々あり、プログラミングの世界から、Aiの世界やデータサイエンスの世界など、さらにはハードデバイスの世界から、ネットワークの世界まで。それをすべて理解できる人材の育成は非常に困難です。一方で、DX人材には、トランスフォーメーションのための手腕が問われます。DXをリードする人をDX人材とするのであれば、チームを作ってトランスフォーメーションするという設計が会社として必要だと思います」と指摘します。十分なデジタル人材の育成も困難な中で、DX推進のためのDX人材の育成や発掘が求められています。DX人材への取り組みについて、須田氏は「DX人材は、野球のチームみたいに、いろいろな役割を持つ人たちによって構成されるべきと考えています。今やりたいと思っているのは、デジタル技術から価値を見出す人材と、ビジネスの現場で何が求められているのかを分かっている人たちの会話です。そこから、DXにつながるアイディアが出てこなければ、そもそもDXって始まらないと考えています」と話します。
横田氏も「新しいものをどんどん取り入れながら、成長して行くというグロースマインドセットは重要になってきます。デジタル技術は、その新しいことや挑戦をサポートするので、全員が最先端の技術を身につけなくても、ある程度の理解は深めてもらい、成長していけたらと思っています。我々も、営業の人間と一緒になって、データ活用でビジネス課題を解決する仕組み作りに挑戦しているところです。」と説明します。

最後に、植野氏は「デジタルを使わないで仕事するなんて今やありえません。まずは、日々の生活の中で徹底的にデジタルを使い倒すとことが始まりだと思います。もし、どうやっていいかわからない、という時は、若い社員の方に教えてもらえばいいです。どんなアプリ使ってるの?とか、最近なにか面白いサービスあるの?と聞いて、まず自分がデジタルの暮らしをしてみるのが、出発点だと思います」と助言します。
また、須田氏は「デジタル技術とかデータ解析は、決して怖いものではありません。スマートフォンを使うだけでもデジタル技術を使いこなしているのです。大切なのは、そこからどんな価値を見出すか、という創造力にかかっています。自分の創造力を開放して、楽しい会話から新しいものを発見し、小さなDXでもいいので、そういう成果をどんどん横に広げていくのも面白い取り組みだと思います」と提唱しました。
そして、横田氏は「DXやデジタルって楽しまないと、と思っています。すべてポジティブに捉えるのが、DXを成功させる上でも非常に大切です。アインシュタインが『Failure is success in progress!』という言葉を残しているように、失敗しても明るくポジティブに取り組んでいけば、楽しい世界を創っていけると思います。我々の存在や役割が、すべて患者さんのためになると信じて、皆さんと一緒にDXを推進していきたいと思っています。」と締めくくりました。

(2021年10月開催 Veeva Commercial Summit Connect セッションより)